サーガは、森の静寂に包まれた畑の道を一人歩いていた。彼の腰の杖は静かに地面を叩き、ふと目を上げると遠くに幸福そうな二人の姿が見えた。笑い声と幸せそうな笑顔は、彼の心の奥深くに鋭く刺さった。そう、彼にとってこの世界は、夢と絶望の狭間だった。何も見なかったことにしようと決めたはずなのに、その光景だけは目を離せなかった。

サーガは、魔法と理性を重んじる獅子好きなウィザードだった。幼い頃、狩猟の宴に参加し、獅子の勇敢さと誇りに魅かれ、それ以来、獅子の精神を追い求めてきた。自己鍛錬は常に彼の日課であり、魔法文明の繁栄を夢見ていた。しかし、彼の心は徐々に歪んでいった。幼い頃に見た勇敢な獅子の姿と、自分の現実とのギャップ。その痛みと共に、彼の心には何かが欠けていた。

サーガは、生まれながらにしてハンディキャップを抱えていた。何をしても報われない日々。苦役に従事し、唯一の救いといえる魔法の力も、彼の孤独を癒すことはできなかった。何もかもが無意味のように思われた。彼はこの世の不条理に気づき、やがて諦めを染み込ませていった。何も変わらない。何も救われない。彼の心は重く沈み、存在すら否定するようになった。

ある日、病が彼を襲った。体の自由を奪われ、日々の糧さえもままならない。孤独と虚無の中で、サーガは己の無力さを痛感した。彼の人生は、まるで命の灯火が静かに消えかけるようだった。その時、偶然に彼の目に入ったのは、幸福そうに寄り添う若い男女の姿だった。彼らは楽しげに笑い、未来への希望を感じさせた。サーガは思った—この世には不幸などない。たまたま彼の日常に災厄が降り注いだだけだ、と。

彼はその風景を見て、少しだけ心の奥底にあった感情と向き合った。それは、羨望と葛藤、そして少しの暖かさだった。人々が幸せを見いだすさまを、長らく遠くから見ているだけだった自分の孤独に、気づいてしまったのだ。

だが、その日々も深刻な変化を迎えることとなる。ある夜、突然の災厄が町を襲った。火災と洪水、悲鳴と叫び声が恐怖の舞台だった。サーガは、もう何も見なかったことにしようと決めた。自分が何かできるわけがない。役立つことなど一つもないと感じていた。しかし、彼の心のどこかに、以前の勇敢さと誇りが微かに燃え上がった。

彼は、多くの人々が苦しむ中で、震える手を振るって魔法の杖を握った。ハンディキャップを抱えながらも、彼はかつての自分の夢と誓いを思い出した。獅子の勇敢さは恐怖に屈しないことだ。たとえ小さくとも、誰かのために何かできることがあるはずだ。

声が聞こえた—あの時の二人の影の中から、「助けて！」という叫びだった。彼は迷わず走った。倒れそうな子供、泣き叫ぶ母親、つかの間の絶望の中で、サーガは自分の内に眠る勇気を解き放った。魔法の光は彼の手からほとばしり、悪夢のような災厄を少しずつ収束させた。

そうして彼は、初めて本当に大切なことを知った。見たくなかった過去や絶望の中でも、心のやさしさがあれば、少しだけ光をもたらせるのだと。彼の中にあった勇気と誇り、獅子の魂は、助手たちの祈りとともに、強く燃え上がった。

彼は気づいた。力だけではない、優しさと勇気が何よりも大切だと。人生の苦難は、時には見たくないものを見せつける。しかし、心の奥底にある善意とやさしさに触れれば、どんな暗闇も少しずつ照らすことができるのだ。

サーガの心に、やがて希望と勇気が満ちていった。獅子の誇りは揺るがず、彼はもう一度、夢を追い始めた。魔法文明の未来を、希望の灯火を、世界に示すために。

彼はただ静かに歩き出した。もう何も見なかったふりはしない。本当に見たくないものを見ないために。見たくなかったものも、知る必要があったから。たとえ絶望の中にあっても、勇気を持てるなら、明るい未来は必ずやってくると信じて。

それが、サーガがついに掴んだ真実だった。