### 空を見上げるコード
【一ページ目】 夕暮れのデジタル都市で、yukiは開発塔の屋上に出た。 空には、広告ドローンが星のふりをして並んでいる。 隣ではカイトが、首を大きく反らして雲を見ていた。 電子犬のポルが、二人の視線を不思議そうに追う。
「上に何かいるの?」
【二ページ目】 yukiが見上げると、雲のすき間から小さな光が落ちてきた。 それは、空を飛ぶ配達ロボットの赤いランプだった。 カイトは真剣な顔で、ランプに向かって手を振る。 ポルは尻尾から青い電気をぱちぱち散らした。
「たぶん、あれも休憩中だよ」
【三ページ目】 笑ったあと、yukiの肩から少しだけ力が抜けた。 けれど胸の奥には、まだ未完成のアプリが残っている。 画面には、何度直しても消えない赤いエラーが浮かんでいた。 指先を動かすたび、疲れが小さなノイズになって響く。

【四ページ目】 カイトは機械を従わせる魔法を使わず、そっと端末に触れた。 回路の奥で、迷子になった処理の音を聞き取る。 ポルも画面の前に鼻先を寄せ、くん、と鳴いた。 赤いエラーは、ひとつの細い線へと姿を変えた。
「壊れてるんじゃない。迷ってるだけだよ」
【五ページ目】 yukiはエラーを一気に消そうとはしなかった。 原因をひとつずつ確かめ、短いコードを丁寧につなぐ。 カイトは急かさず、ポルの背をゆっくり撫でている。 都市の機械音も、いつしか遠い雨のように聞こえた。
【六ページ目】 しばらくして、画面の赤い印がひとつ消えた。 完成ではないけれど、確かな前進だった。 yukiは小さく息を吐き、背もたれに身を預ける。 カイトは温かい光の飲み物を、彼女の前に置いた。
「今日の一歩は、ちゃんと明日を助けるよ」
【七ページ目】 yukiは窓の外を見た。 さっきの配達ロボットは、まだ空の高いところを飛んでいる。 ポルはその光を追いかけ、屋上を元気に走り回った。 カイトは笑いながら、転ばないよう電子犬の首輪をつかむ。
【八ページ目】 「少し休んだら、もう一歩だけ進もう」 yukiはそう言って、端末を静かに閉じた。 仕事を止めることも、前へ進むための操作なのだと気づく。 夜の都市に、明日のための小さな充電灯がともった。
空を見上げれば、星のふりをしたドローンがまだ瞬いている。 その光は、急がなくても道は消えないと、黙って伝えていた。