### 『森の灯りを、いったん消して』
【第一頁】 朝、ミロクの窓を、熱い風が叩いていた。 遠くの空では、雷雲が大地を青く染める。 水晶板には、山崩れと洪水の知らせが流れていた。 ミロクは、胸の奥まで揺さぶられた。
「また、こんなに……」
【第二頁】 トウマは森の音を読む耳を澄ませた。 木々はざわめき、川はいつもより速く鳴っている。 けれど、風の音は一つではなかった。 高い山の風、海から来る湿った風、熱を含んだ街の風。
「空は、いくつもの声で動いている」
【第三頁】 ミロクは空を見上げた。 人が雷を操っているのではないか、と考えた。 災いが続くと、怖さは想像を大きくふくらませる。 トウマは否定せず、森の地図を静かに広げた。
【第四頁】 地図には、雲の流れと川の道が描かれていた。 複雑な自然の仕組みが、重なっている。 わからないことは怖い。 だからこそ、できる備えを一つずつ書き込んだ。
「まず、避難小屋を見よう」
【第五頁】 二人は、火蜥蜴の灯りを先頭に歩いた。 道の途中で、荷車を押す作業人たちに出会った。 彼らは汗をぬぐいながら、休まず働いていた。 熱気で、石の道さえ揺らめいている。

【第六頁】 ミロクは荷車のそばに、日除け布を張った。 トウマは風を呼び、冷たい空気を通した。 水を飲む時間と、交代で休む場所も決めた。 誰かが倒れてからでは、森も商いも続かない。
「休むのは、仕事を守る力だよ」
【第七頁】 避難小屋には、古い帳簿が積まれていた。 ミロクは、堤を直す木材の量を書き留めた。 森を削る工房の費用も、煙を浄める石の費用も。 見えない負担を、なかったことにしないために。
【第八頁】 「商売の経費に、森の傷も入れよう」 ミロクは帳簿を指で押さえた。 災害を遠ざける堤や植林は、ぜいたくではない。 明日の店と暮らしを残すための投資なのだ。
【第九頁】 帰り道、水晶板がまた光った。 新しい警報が、赤い文字で流れてくる。 ミロクの指が、板へ伸びかけた。 けれどトウマは、そっと灯りを小さくした。
「情報も、浴びすぎれば熱になる」
【第十頁】 二人は木陰に座り、冷たい果実を分けた。 風が葉を鳴らし、遠くでフクロウが一度鳴いた。 ミロクの体は重く、心もまだ不安だった。 それでも、呼吸は少しずつ深くなった。
【第十一頁】 夜、ミロクは家の前に避難袋を置いた。 水、灯り、薬、地図、そして仲間への連絡石。 完璧にはできない。 だが、できることは確かにある。
【第十二頁】 森の向こうで、雲の隙間から星が見えた。 トウマは風を細く操り、迷わない道を照らした。 ミロクは帳簿を閉じ、明日の休憩時間を書き足した。 その小さな字が、夜の中で長く残った。