【一コマ目】 妖術文明の都、アヤカシワールド。 火の塔、雷の橋、水晶の書庫が朝の霧に浮かんでいた。 ミロクは机に向かい、戦う主人公の絵を見つめていた。 その人物は、胸を貫かれているのに、何も感じていないようであった。

【二コマ目】 「私は、痛みを忘れてしまったんだろうか」 ミロクは筆を置いた。 傷口から流れる赤い光には凄惨さがあった。でも、そこに生命の苦しさが介在しなかった。 それは血を描いた絵であって、生きている人の絵ではなかった。
【三コマ目】 窓辺で、白い蛇を肩に巻いたクオンが静かに振り返る。 彼女の指先には、水と風の妖術が細い輪となって踊っていた。 「傷は、時間の中で生き始める」 クオンはそう言って、ミロクの原稿を受け取った。
【四コマ目】 二人は、古い森の奥にある訓練場へ向かった。 そこには、かつて雷獣と戦った守り手、ガンガがいた。 彼の左腕には、山のような傷跡が走り、指は三本しか動かなかった。 それでもガンガは、村の子どもたちに木剣を教えていた。

【五コマ目】 ガンガが木剣を振るうと、古傷が引きつった。 一度、二度、三度。四度目で彼は膝をついた。 子どもたちは息をのみ、ミロクは思わず手を伸ばした。 「ちょっと休もう。痛いものは痛い。それでいいんだ」ガンガは優しく笑った。
【六コマ目】 ガンガは傷の周りを温め、薬草をすり込んだ。 冷えると動かしにくいこと、雨の前には疼くことを話した。 クオンは風を弱め、森の獣たちも遠巻きに見守っていた。 傷跡は過去の飾りではなく、今日の身体を、未来の自分を決めるものでもあった。
【七コマ目】 ミロクは原稿を開き、主人公の胸の傷を描き直した。 戦いの直後、息が浅くなり、手が震え、立つまでに時間がかかる。 勝利したあとも眠れず、仲間の声にびくりと反応する。 強さとは、何も感じないことではないと描き込んだ。
【八コマ目】 ミロクは遠くから雷を落とす兵器の絵も見直した。 光が敵を倒すだけでは、撃つ者のためらいも、受ける者の恐怖も消えてしまう。 だから彼は、術者の指が止まる瞬間と、相手の顔を見る瞬間を加えた。 力には距離があっても、人の感覚まで遠ざけてはいけない。
【九コマ目】 「血を増やせば、真実になるわけじゃない」 クオンの言葉に、ミロクはうなずいた。 大切なのは、傷が残り、身体と心が変わり、その後の生き方に影を落とすこと。 そして、その影を抱えたまま誰かに手を伸ばすことだった。

【十コマ目】 夕暮れ、ミロクは最後のページを描いた。 主人公は傷ついた腕で、倒れた仲間を起こそうとしていた。 痛みで顔を歪めながら、それでも「もう一度」と立ち上がる。 その表情には、勝者の輝きではなく、生き残った者の誠実さがあった。
【十一コマ目】 完成した絵を見て、ガンガはゆっくり笑った。 クオンの肩の白蛇が、紙の上の傷跡を鼻先でなぞる。 ミロクは、物語が急に強くなったのではなく、息をし始めたのだと感じた。 痛みを知る者の歩みは遅い。それでも、確かに前へ進む。
【十二コマ目】 夜の書庫で、ミロクは新しい紙を一枚ひらいた。 まだ描かれていない未来には、傷も迷いも残っている。 けれど、だからこそ登場人物は、明日を選ぶことができる。 窓の外で、クオンと蛇が月明かりの森へ帰っていった。