## 『間をあける斥候』
### 【一コマ目】 朝、森の市場で、ミロクは風車の前に立っていた。 火の粉を瓶に閉じこめ、旅人へ渡す仕事だ。 けれど今日は、客の足音がひとつも聞こえない。 隣でルナが、月草の葉を静かに整えていた。
### 【二コマ目】 「どうして売れないんだろう。もっと声を出すべきかな」 ミロクが呼び込みの旗を持ち上げると、ルナはそっと首を振った。 森の奥では、昨夜の雷雨で道が崩れている。 急いで客を呼べば、危険な場所に客を誘うことになるかもしれなかった。

### 【三コマ目】 ミロクは旗を下ろし、崩れた道の方角を見つめた。 答えはもうあった――今日は店を閉じ、崩れた道を調べること。 そして、すぐには動かず、風の向きが穏やかになるまで待った。 あえて止まることも、仕事のうちだと、少しずつ分かってきたからだ。
### 【四コマ目】 以前のミロクは、体力の限界を使って全力で走った。 熱意があり過ぎて、周りの声を聞けなくなったこともある。 今は、仲間の火を温存し、自分の返事にも時間を置く。 「待つのも、仕事のうちなんだ」と、胸の中で唱えた。
### 【五コマ目】 昼すぎ、客のいない店先で、ミロクは水鏡をのぞいた。 顔が整っているか、金貨をいくら持っているか――そんな浅瀬だけで、人を測る声が市場には多い。 けれど深さとは、目に見える持ち物だけではなく、何を守りどう使ってきたかにも現れる。 ミロクは、誰も来ない時間の中で、そのことを考え続けた。
### 【六コマ目】 ルナは森の獣たちへ水を配り、傷ついた小妖魔の巣を見回った。 力は支配のためではなく、共に生きるためにある。 雷を恐れながらも、ルナは逃げず、ただ無謀にも飛び込まない。 「浅瀬を知ってから、深海へ行こう」
### 【七コマ目】 夕方、ミロクは斥候のように、崩れた道を一人で確かめた。 先人の記録を読み、危険なぬかるみを避け、仲間には安全な道だけを伝える。 泳ぎ方を知らずに海へ入る必要はない。 準備を整えるほど、挑戦から恐怖は遠のいていく。
### 【八コマ目】 戻ったミロクは、店を開けず、明日の案内板を作った。 やらないことを決めるには、動く以上の判断がいる。 今ここで客を呼ばないことが、旅人と森を守る仕事になる。 空いた時間は、味方のための余白へ変わった。
### 【九コマ目】 夜、月が森の水面に浮かぶ。 ミロクは答えを持ったまま、すぐには口にしなかった。 ルナも急かさず、隣で小さな灯を守っている。 風が止んだあと、二人は静かに、明日の一歩を選び始めた。