タイトル :
垂れるかな 千代に八千代に ススキ穂や
作成者 : ミロク
年代 : 2020年代
世界観 : default_va
テイスト : 和風
景色 : お昼
カラー : #ff0000
投稿日 : 2026年10月30日15:00
夕映えの鳥居を、少年・千代はひとり渡った。狐の面は後頭にかかり、すすきの穂だけが、風の行方を知っている。
白狐は橋のたもとで振り返り、白うさぎは足もとを跳ねた。遠い富士は、赤い日の丸のなかで眠っていた。
社の奥には、千代の名を持つ鈴が吊られていた。 八千年に一度、村を守る神狐が帰る夜、鈴が鳴れば、失われた人も戻るという。けれど鈴の緒は、細く、すすきのように垂れていた。
千代は穂を一本、そっと結びつけた。指先に伝わる露は、冷たいのに、母の手のようだった。
「垂れるかな。千代に八千代に、ススキ穂や」
白狐が鳴くと、雲は浮世絵の波となり、山々を静かに包んだ。その瞬間、狐の面がひとりでに少年の顔へ滑った。面の奥に見えたのは、幼い日の母と、帰らぬ父の笑顔。
鈴は鳴らず、ただすすきが大きく頭を垂れた。
すると橋の向こうから、忘れられた祭囃子が、薄明の空を渡ってきた。千代は振り返らなかった。
白狐と白うさぎを連れ、鳥居の先へ歩き出す。
穂は風に揺れながら、千代の背を祝福するように金色に光った。長い歳月も、ひとつの約束も、垂れてなお折れない――そう告げるように。