種族:モノノケ
ウンパルンパ
白い塔のような会社のてっぺんで、ウンパルンパは暮らしていた。 金髪は片側だけ三つ編み。白いスーツには細かな刺繍。 胸の青い宝石が、朝の光をひとしずく抱いていた。 機械の海を泳ぐイルカ型端末だけが、彼の古い友だちだった。

ウンパルンパは天才だった。 テストは、適当に鉛筆を転がしても百点。 百メートル走も、マラソンも、なんだかんだ一位になった。 「ウンパルンパがいれば大丈夫! うんぱるんぱ〜!」それが、ウンパルンパの口癖だった。
なんだかんだで、いい大学へ入った。 なんだかんだで、会社を立ち上げた。 なんだかんだで、世界中の金貨が彼のもとへ集まった。 けれど、心だけは少しずつ、からっぽになっていった。
銀の食卓。虹色の噴水。雲でできた寝台。 朝は宝石の果物、昼は海底の宮殿、夜は星を散らした舞踏会。 それでもウンパルンパは、次の楽しみを探していた。 イルカ型端末が小さく鳴いても、彼は耳を傾けなかった。

幼いころ、故障した妖魔を救えなかったことがある。 その泣き声を、誰も翻訳できなかった。 だからウンパルンパは、種族を越えて心を伝える装置を夢見ていた。 だが今、その設計図は金庫の奥で、ほこりをかぶっていた。
ある朝、一通の手紙が届いた。 差出人は、世界一の大泥棒、江戸川菊衛門。 「おい! ウンパルンパ! 一か月後、お前の会社へ盗みにいくぞ!」 「きちんと用心しろよ。でないと張り合いがないからな!」
ウンパルンパは手紙を読み、あくびをした。 「ウンパルンパがいれば大丈夫! うんぱるんぱ〜!」 そして手紙を、金色の灰皿へ落とした。 灰は静かに舞い、警告の文字を隠した。
一か月後、町では盛大な祭り大会が開かれた。 ウンパルンパは白い衣装のまま、中央の舞台で踊っていた。 「ウンパルンパ音頭だよ! うんぱるんぱ〜!」 笑い声と太鼓が、会社の警報をすっかり覆い隠した。

そのころ江戸川菊衛門は、ウンパルンパに変装していた。 同じ白いスーツ。同じ三つ編み。同じ、薄い黄色の瞳。 門番たちは頭を下げ、金庫は歌うように開いた。 「うんぱるんぱ〜」という声とともに、通帳も宝石も消えた。
翌朝、ウンパルンパは会社へ戻った。 金庫は空っぽ。机の上には、青い紙切れが一枚。 そこには、こう書かれていた。 「全くもって張り合いがなかったな。ウンパルンパ。だが、盗まれるものはたくさんあったぞ」

初めて、ウンパルンパの顔から笑顔が落ちた。 彼は走った。けれど、どの競技場にもゴールはなかった。 彼は電話をかけた。けれど、誰も彼の声を聞かなかった。 「ウンパルンパがいれば大丈夫……うんぱるんぱ〜」
言葉は、風船から抜ける空気のように、細く消えた。 その夜、胸の青い宝石が、ひび割れた。 イルカ型端末が、かすかな声を受け取った。 それは、昔の妖魔と同じ、助けを求める音だった。
ウンパルンパは手を伸ばした。 しかし、豪華な指輪が重く、腕は空へ届かなかった。 窓から吹き込んだ風が、彼の身体をふわりと持ち上げる。 やがて彼は、風船のように夜空へ飛んでいった。

「ウンパルンパ〜」
遠くの遠くで声がした。 それは誰かを呼ぶ声なのか、誰かに呼ばれた声なのか。 耳をすませてみよう。 今も多分、聞こえるはずだ。
中身のない、薄っぺらな、 訳のわからない「ウンパルンパ」という音が。
ウンパルンパは天才だった。
テストでも適当にやっても100点になっちゃうし、100メートル走をやってもなんだかんだ一位になっちゃうし、マラソンをやってもなんだかんだ一位になってしまう。
で、なんだかんだいい大学に入ってなんだかんだ会社を立ち上げて、なんだかんだお金持ちになってしまった。
ウンパルンパの・・・・・・・・・・・➡